人生の最期をどのように迎えるのか。患者と医師との間ではこの考え方には大きな違いがあります。最先端の医療技術を持つ病院のベッドで、無数の管を身体に通され、身動きもできないまま孤独と痛みに耐えながら息を引き取るのか、
或いは生まれ育った家で、家族に見守られながら安らかな最期を迎えるのか。
どちらが人間らしい逝き方であるのかは、言うまでもありません。しかし今、医療の現場ではこの人間らしさが失われつつあるようです。こういった医師の姿勢に疑問を持ち、自ら起業し患者に寄り添う医療を行っている人がいます。それが内藤いづみさんなのです。
内藤いづみのプロフィール
・出身地:山梨県六郷町
福島県立医科大学卒業後、三井記念病院の内科に研修医として勤務することになります。その後東京女子医大・第一内科へ行き、この頃イギリス人の男性と結婚します。常日頃から医療現場の無味無臭で無機質な体質を疑問に感じていたと言いますが、この結婚が後の内藤の医師としての人生の大きな転換点となります。
1986年、石油会社に勤めていた当の夫がイギリスへと転勤になります。内藤は家族と共にイギリスへ渡るのですが、そこで内藤は自分が理想としていた医療を目の当たりにし、ホスピスの何たるかを学ぶのです。
この、ホスピスを日本に広めたいという内藤の思いは、夫に伝わり、家族で再度日本へと帰国することになるのです。帰国後内藤は市内の病院へ勤務するのですが、その一方で「山梨ホスピス研究会」を発足。
しかし、組織というしがらみがあることで、自分の哲学を通すことができないと、遂に「ふじ内科クリニック」の開業へと至ります。医師会へ所属することなく、自らが自由に活動できる環境の中、内藤の病院は口コミで徐々に知られていくことになるのです。
ホスピスとは
末期がん患者は最新の医療技術により延命措置が取られ、人間としての尊厳をないがしろにされながら、冷たい病室で最期を迎えるということが多いのが医療現場の現状です。これからのがん治療の飛躍のためには、こういった方法もやむを得ないのは分かります。
しかしそういった医療現場に違和感を抱く人も多いのもまた現状としてあるのです。そこで最近はホスピスというケアが注目を集めるようになりました。
ホスピスとは患者とその家族の苦痛をチームによって緩和し、その患者と家族が充分に納得できる最期を迎えることを目的とします。つまり、患者の怒りや不安、痛みや辛さを和らげ自分らしさを取り戻す、その手助けをして、そして家族と共に患者に寄り添い穏やかな臨終へと導くのです。
内藤は在宅ホスピス医として活動する傍ら、ホスピスの普及にも力を入れています。著書は多数あり、絵本や講和集も発刊されていて、それに感銘を受けた人とともに日本のホスピスは、確実に広がりを見せているのです。最期まで人間らしく生きることの素晴らしさを説く、これが内藤のホスピスと言えるでしょう。
内藤とスピリチュアルケア
「病院ではなく住み慣れた我が家で最期を迎えたい」、こういった願いを持つ患者は多いのです。内藤は医療現場の「死とは敗北である」という考え方に馴染めず、死を迎えた患者のそばに寄り添うことを第一と考えそれを実践しています。
その内藤はスピリチュアルについては「私たちはこの世になぜ生まれてきたのか」ということだと言っています。この答えを探すために人は一生をかけて生きていくという考え方なのです。
その上で内藤は「人には『産まれる力』と『産む力』があり、そしてもう一つ『死ぬ力』があると説きます。それを引き出すのがスピリチュアルケアでありホスピスであるわけです。人間として生きていくために、自らの命を価値あるものにすること、これが内藤の目指すところでもあるのです。
つまり既存の、オカルトテイスト、或いはエンターテイメント性がある所謂「スピリチュアリズム」とは一線を画した、より実践的であり、現実的な生と死にに関する一連の姿勢を内藤はスピリチュアルと言っているのかもしれませんね。